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05 モア


『ユートピア』(岩波文庫)

「やっとその国を手に入れてみて分ったことは、その統治の苦労と困難は侵略のそれにもまさるとも劣るものではないということでした。」(49頁)

「各農家の人々のうち、田舎に二年滞在した者は二十人ずつ毎年州の都会へゆく。そしてこれと入れかわりに同数の人々が新しく都会から田舎に送られてくる」(73頁)

「ユートピア人は昼夜を24時間に等分し、その中わずか6時間を労働にあてるにすぎない。」(82頁)

「公共生活に必要な職業と仕事から少しでも割きうる余暇があれば、市民はそのすべての時間を肉体的な奉仕から精神の自由な活動と教養にあてなければならない。」(88頁)

 1516年刊行の本書では、航海士からの聞き取りという形で話が展開される。「囲い込み」に関する記述(人を喰う羊)が有名で(26頁)、工業都市化が急速にすすむ当時の英国がかかえる問題を皮肉たっぷりに表現しつつ、人間らしい社会生活のあり方を模索している。モアにおける「真の仕事」では、各人の労働における公益と私益、肉体的奉仕と精神的活動のバランスを重視している。この考え方は永遠のテーマとして、後人たちに受けつがれていく。


06 モリス


『ユートピアだより』(中央公論新社)

「人々は田舎の村々に群れをなしてつめかけ、都市は田園に侵入したのですが、その侵入者たちは、はるか昔の好戦的な侵入者たちのように、彼らの環境の影響力に屈してしまい、田舎の人々になってしまいました。そして、彼らが都市の人々より多くなるにつれて、今度は入れ替わって、都会の人々に影響を与えたのです。そういうわけで、都市と田舎との違いはしだいに少なくなってきました。」(353頁)

「すべての仕事はいまは楽しいものです。仕事そのものなかに意識的な感覚の喜びがあるからなんです。それは芸術家として仕事をしているということです。」(376頁)

「すべての仕事はいまは楽しいものです。仕事そのものなかに意識的な感覚の喜びがあるからなんです。それは芸術家として仕事をしているということです。」(376頁)

「労働力節約の機械類ですって? さよう、あれらはある一つの仕事についての『労働(というか、もっとはっきりいって人々の生活)を節約する』ためにつくられ、それをもう一つの、おそらく無用な仕事にむけるために――浪費するために、と私はいおう――つくられたものです。」(379頁)

1890年に書かれた連載小説。主人公がある朝めざめると、場所は自宅周辺でありながら、約150年後の21世紀半ばに時間移動していた。そこでの人々との出会い、生産や消費、芸術や文化、建築などを紹介する。

ここでは、家事も芸術的であり、女性らしい仕事として描かれている。また、蒸気機関や鉄道は廃止され馬や水上交通、水車も合理的で美しい装置として再生されている。その一方で「圧力機関」(456頁)という排ガスのない新技術もみられる。

日本でも、柳宗悦らの民芸運動に大きな影響を与え、それはまた信州における農民芸術運動にも波及している。


07 エンゲルス


『猿が人間になるにあたっての労働の役割』(新日本出版社『自然の弁証法(抄)』)

 「こうして手は、労働の器官であるばかりではない。手は、労働がつくりだした産物である。」(54頁)

 「言語は労働から、また、労働とともに生まれた」(55頁)

 「われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎないようにしよう。そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐するのである。なるほど、どの勝利も、最初はわれわれの見込んだとおりの諸結果をもたらしはする。しかし、二次的また三次的には、まったく違った・予想もしなかった効果を生み、これが往々にしてあの最初の諸結果を帳消しにしてしまうことさえあるのである。(63頁)

 「しかし、この領域でもわれわれは、長いあいだのしばしばきびしい経験をつうじて、また、歴史的材料の取り揃えと研究とをつうじて、しだいに自分たちの生産的活動のかなりあとになって現われる間接の社会的諸影響を明らかにすることを習いおぼえてきており、また、これによってわれわれには、こうした影響をも抑え規制する可能性が与えられているのである。」(65頁)

 1876年に書かれた小論。ヒトやその社会が形成されてくる上で果たした労働の決定的な役割を簡潔に述べている。地域づくりの事業においても、労働が人間を成長させる側面をもっと重視すべきではないか、気づかせてくれる。

 エンゲルスは、人間の労働が自然に対する支配を可能にした反面、必ずそのしっぺがえしがあるであろうことを警鐘した。と同時に、人間社会にはそれを事前に見積もり、回避するための対策を施す知恵が蓄積されつつあるとも述べ、アセスメント分野で活動する私たちを励ましてくれている。


08 シューマッハー


『スモール イズ ビューティフル』(講談社学術文庫)

 「小規模な事業は、いくら数が多くても、一つ一つの力が自然の回復力と比較して小さいから、大規模な事業と比べて自然環境に害を与えないのがつねである。」(46頁)

 「仕事の代わりに余暇を求めるのは、人生の基本的な心理を正しく理解していないことを示すものである。その真理とは、仕事と余暇とは相補って生という一つの過程を作っているのであって、二つを切り離してしまうと、仕事の喜びも余暇の楽しみも失われてしまうということである。」(71頁)

 「二十世紀後半の大問題は、人口の地域的な分布の問題、つまり「地域主義」の問題である。」(95頁)

 「人間というものは、小さな、理解の届く集団の中でこそ人間でありうるものである。そこで、数多くの小規模単位を扱えるような構造を考えなければならない。経済学がこの点をつかめないとすれば、それは無用の長物である。」(97頁)

 「私は技術の発展に新しい方向を与え、技術を人間の真の必要物に立ち返らせることができると信じている。それは人間の背丈に合わせる方向である。人間は小さいものである。だからこそ、小さいことはすばらしいのである。巨大さを追い求めるのは、自己破壊に通じる。」(211頁)

 「都市と農村の生活の間に適切な均衡を取り戻すのが、現代人のおそらく最大の課題である。」(265頁)

 本書が警告した石油危機は出版(1973)年の10月には現実のものとなり、一躍世界のベストセラーとなった。シューマッハーは、現代の文明の根底にある物質至上主義と科学技術の巨大信仰を痛撃しながら、「地域主義」や「中間技術」という人間中心の新しい経済学を提唱している。「古典」になりうる名著だと思う。